スタッフブログ

2025.12.10

エコバウ建築ツアー(欧州視察) ④

おはようございます!

本格的に寒くなってきましたが、無暖房でも家中が20℃を超えるパッシブハウスの暖かさに改めて感心している中桐です。前回も冒頭同じ話をしましたね(笑)が、繰り返しお伝えします!

先週夜から朝にかけて一桁代の外気温が続いた寒かった日でも、最低室温は18℃ぐらいで、そこからまた日中の太陽の熱を吸収し室内22℃前後くらいで安定する。現状一度も暖房はつけていません。大したもんです…本当に。

 

さて、今日はエコバウ建築ツアーの続きを書いていきます。備忘録も兼ねてますので今回も長いですよー。ゆるくお付き合いください。思い出しながら書いていますので、もしかしたら、私の聞き間違いや認識違いの箇所もあるかもしれませんが、その辺りはご愛嬌ということで…(笑)では、3日目です!

3日目 -day3-

この日は世界的建築家・ヘルマン・カウフマン氏を軸に【建築・地域・文化】がどう結びついているのかを全身で感じる一日でした。

まずは、朝6時の散歩からスタート。オーストリアの朝はまだ真っ暗で、けっこう冷える。

余談ですが、チーズの24時間自販機↓もありました。

一緒にツアーに参加している皆で1時間ほど街を歩いたあと、スーパー↓で買ったバナナを食べたのですが…どこで食べても同じ味って、なんかホッとしますね(笑)

朝食後、バスでフォアアールベルグ州・プレゲンツの森地方のクルムバッハ村へ。

ここでカウフマン氏本人と合流し、実際の建物を見ながら解説を聞くという贅沢なスタイル。この日は、

①コミュニティ施設 → ②福祉施設 → ③村の街並み → ④レストラン → ⑤製材所 → ⑥会社・工場・作業場 → ⑦高台高級住宅という順番で巡りました。

どこに行っても気になるキーワードが溢れてくる濃密さ…。

なかなかの情報量なので特に印象に残ったワードと共に、写真も添えながら書き記していきます。


①地域のコミュニティ施設

1つ目に訪れたのは地域のコミュニティ施設。

この村にはシンボルといってもいい教会(写真上)があるのですが、そこに訪れた後に人が集う場所としてつくられたのがこのコミュニティ施設(写真下)で、中には広いホール、図書室や音楽堂があります。

内装材にはモミを中心にすべて無塗装で採用。

モミは昔「燃料にしかならない」と大工にも嫌われた材らしいですが、90年代に建築家たちが価値を見直し、今では地域に根付いた素材として再評価されています。

外壁は均一に劣化していくように設計されていて、この施設を訪れただけで【経年変化を設計する】という文化が当たり前なんだと強く感じました。

ファサードの失敗(雨の跳ね返りで出来たシミなど)についても隠さず話してくれました。

正直、失敗の話しで一番にあがる話がこのレベルかと…この地域の建築レベルの高さと成熟を感じました。

そして、しばらく一緒にいてなにより印象的だったのは、住民とカウフマン氏の距離。

歩けばみんなが笑顔で挨拶。(※決して先生という感じではなく、住人の一人として自然に溶け込んでいる)

建築家が地域の中に自然に存在してる。

こういう関係づくりこそ、本当の意味での【持続可能な建築文化】だと思いました。

さらに、「自治体がつくるものは皆の見本になる」とも言われていましたが、本当にそう思います。

日本の場合、全てとは言いませんが国や自治体が平気で性能の低い建物を建て、住民は「国や自治体がつくっているのならこれがスタンダードなのだろう」と誤認し、そのレベルの低さに気が付くことなく生きていく。本当に問題だと思います。


■②村役場を省エネ改修し福祉施設へ

次に見学したのは村役場を全体的に省エネ改修した福祉施設。古い部分と新しい部分が違和感なく調和。

これは、木という素材の「つなぎ力」が大きいとのこと。

この村では、というか国では、福祉施設と賃貸住宅との差が見た目だけでなく性能面でもない。

認定こと取得していないものの、全てがパッシブハウスレベルで建てられているという事実です。驚愕ですね…。

「どんな立場の人にも同じ質を」という考えがすごく印象に残りました。


■③村の街並み

街中ではコルク外壁の建物などもありましたが、カウフマン氏曰く「叫びすぎ」と解説。

独特な表現ですが、主張が強すぎる素材ということは伝わります。ただ経年変化の出方を見るのは面白いとも感じました。

とにかく外装材・内装材共に木が多い。この景色・風景が当たり前になるまで30年かかったとのことですが、言い方を変えれば新旧の建築とそこに住む人の意識を違和感なく自然に馴染ませる力が【木】にはあるということです。

そして、もう一つここでも印象深かったのは、自治体が太陽光発電を管理し、持続可能性が高ければ高いほど補助金も増えるという仕組み。こういう「自立する地域」が当たり前になっているのが本当にすごい。

その他にもこの地で行われたバスストッププロジェクトという、当時の若手建築家によりデザインされた多くのバス停の中の一つに、万博の大屋根リングの設計を手掛けた藤本壮介氏の作品もあり、そこも見学しつつ昼食へ。

↓これバス停です!


■④昼食:畜舎を改修したレストラン

ランチは、カウフマン氏お気に入りのレストランへ。

60年代の畜舎を改修した建物で、格子のリズムをあえてズラしたり、典型的な4.5m角の居間空間を取り入れたりと、伝統を現代に訳し直したような建築でした。随所に日本的な繊細さも感じられ、カウフマン氏の「日本愛」が伝わるディテールがいくつもありました。


■⑤素材を見せる製材所

製材所と聞いて、自分が想像していた製材所とは全く違い、本当にサイズが大きい(驚)

ここではいかに素材を魅せるか、そして接着剤を極力使わない木造技術について説明を受けました。
梁の役割や引っ張り・圧縮の考え方など、シンプルだけど奥深い。

地震がほぼないので、日本とは構造において耐震に対する意識の差はあれど圧巻の空間美でした。


■⑥会社・工場・作業場

カウフマン氏の会社は約40名の工務店組織。
建築家と職人が対等に議論し、教育を受けた大工が専門職として誇りをもって働く。

そんな空気があたり前に流れています。

地域工務店として、私達と規模が全然違いますが、「文化は自分たちの手仕事でつくる」

皆に会社の思想はしっかり伝わっている印象を強く受けました。

【建築家は構造と素材と手仕事を理解して初めて、良い建築がつくれる】この言葉も響きました。


■⑦高台に建つ600万ユーロの邸宅

そして最後は、今回というよりは、今まで見てきた中で最も高価格の個人住宅。

何と600万ユーロ=10億超えの住まい!10億って…(驚)

ここは、言葉で説明が難しいのですが、とにかく映画に出てくるセレブリティ達によるパーティが日々開催されているだろうと想像できる超ラグジュアリーな邸宅です。

住まわれている家族のみなさん、笑顔が素敵で言葉はドイツ語で直接は分かりませんが、底抜けに明るくハッピーマインドの方々で、こういう所に人もお金も運も集まるんだろうなと感じた素敵なご家族とお家でした。

写真で伝わるか分かりませんが、あふれるセレブ感をご堪能ください!

ここで、カウフマン氏とはお別れです。次はきっとまた日本でお会いできる。そんな予感がしています。


■カウフマン氏が語ったこの町の本質

心に残ったのは、この地域について語ってくれた言葉の数々。その他もいくつか箇条書きにすると、

・産業と暮らしのバランスが取れている
・住民に責任感としっかりとしたコミュニティがある
・手仕事が尊敬と誇りを生み、それが価値になる
・驚くような建築ではなく、遺せる建築を
・主張しすぎない静かな建築こそが、この地にはふさわしい

などなど。

人口1000人の村とは思えないほどの幸福度の高さは、建築だけでなく【文化・産業・教育】が循環しているからこそ。

そう感じました。


ヒッティサウ村へ戻り、学校建築を見学

その後ヒッティサウ村へ戻り、コンペを経て45年前に改修された学校建築を見学しました。

これはカウフマン作品ではありませんが、この地域の建築文化の層の厚さを感じさせる存在でした。

もともとあった既存校舎を活かしつつ、体育館や催事スペースを含めた全体を改修したプロジェクトで、特に心に残ったのが【自治体との共同】が建前ではなく本気で機能している点。

ファサードの格子はEUのパイロットプロジェクトによる助成金を活用して実現したものだったりと、【公共建築×地域技術×ヨーロッパの制度】がうまく組み合わさった事例でもありました。

吸排気は機械換気ではなく自然換気を採用している点も面白くて、土地の気候性や生活スタイルに寄り添ったここでも「ローテク」を意識した建築が建てられていました。


■3日目のまとめ

まとめとして、今日一日を通して強く感じたのは【建築はモノではなく「関係性」でできている】ということ。

素材、経年変化、自治体の姿勢、地域の人との距離感。

どれか一つでは成立しなくて、全部が連動して「文化」となっていく。

ヒッティサウの学校まで見て、カウフマン建築が特別なのではなく、この地域全体が「建築文化を共有している」ということに気づかされました。

地域工務店として、この学びをどう日本で自分たちの街に、地域に落とし込めるか。

果てしなく感じるそこまでの距離と、見てきたことを伝え実現させる使命感と責任とが入り交じり不思議な感情になりながらツアー3日目を終えました。

おそらく伝わったかと思いますがとてもとても濃い一日で、書ききれない程の刺激と学びがありました。

本当に来てよかったと思った。そんな世界的な建築家ヘルマン・カウフマンづくしの1でした。

 

ということで、次の4日目からはスイス編です。移動時間もあったので5日目と一緒に書くかもしれません。

もう後半ですね。おそらく、あと2~3回ぐらいで書き終わるかと思います。

読んでくれた方が少しでも何か感じとってもらえたら嬉しく思います。

 

それでは、素敵な一日を!