スタッフブログ
2025.12.29
エコバウ建築ツアー(欧州視察) ⑤
おはようございます!
年末も年末になってきましたが、全くその気分にならない、なれない?(笑)中桐です。
さて、連載で書いてきましたエコバウ建築ツアーの振り返りも今回で4日目。
どうやら次々回が最終回の全7回構成となりそうです。
では、行きます!
4日目 -day4-
朝一番バスに乗り濃い時間を過ごしたオーストリアを後にし、スイスへ入ります。
この日は木造集合住宅【OPENLY】と、世界最先端の木造企業【ブルーマー・レーマン社】を巡る一日。
この日は建築を見る前から、すでに衝撃が始まっていました。
移動のバスの中で、通訳の滝川さんが話してくれたスイスの建築・教育・住宅市場の話。
その一つ一つが、日本との違いをはっきり浮かび上がらせます。
今回は日本との違いをテーマに書いていこうかと思います。
■ローテクだけど、社会を支えている建築
スイスの建築は、見た目だけで言えば決して派手ではありません。
でも建築が仕事を生み、教育と結びつき、地域を豊かにし、結果として多くの人を幸せにしている
この構造が、社会の中にきれいに組み込まれています。
日本では、建築は「コスト」や「消費」の話になりがちですが、スイスでは「社会を支えるインフラ」として共有されている。この意識の差が、すべての前提を変えていると感じました。
■日本と決定的に違う「職業としての建築」
スイスでは、子どもの約3分の2が職業教育を選びます。週3日は学校、残りは企業で実務。
18〜19歳で国家資格を取り、一人前として社会に出る。
これは、日本のように「とりあえず大学へ」、「建築はきつい・安い・将来不安」という空気とは真逆です。
大工は憧れの職業ランキング上位。若い世代が多く、成長産業として評価されている。
日本では職人不足が深刻と言われますが、スイスでは【職業として尊敬され、将来が見える】
ここが決定的な違いだと思います。
■OPENLYに詰まっていた、日本が避けてきた問い
上記を踏まえた上で、この日最初に訪れたのは、2024年竣工のザンクトガレン州にあるヴィナウ村にある木造集合住宅【OPENLY】ここです↓

この建築は、単なるエコ建築ではありません。
施主は銀行家。建築が生むCO2の多さを知り、「自分のプロジェクトで、そこに向き合う」と決めたとのこと。

日本では、コストが上がる、前例がない、制度が追いついていない、そんな理由で、ここまで踏み込む建築はまだ少数です。この中でも「前例がない」は厄介で、日本人は特に新しい変化を嫌います。いつからそうなったのか分かりませんが、基本的に事なかれ主義で、出る杭はみんなで打ち、みんな横ならびで安心を得る、そんな特性があるように感じます。

このOPENLYでは、セメント・石油由来材料を極力使わず建物をコンパクトにまとめ、立地条件も含めてCO2排出を回避する。そうです。
■素材でCO2をためる建築
今回のツアーで素材として、多く耳にしたのが「HEMP(ヘンプ)」大麻です。

日本では、大麻と聞いた瞬間、違法の方へ考えが行ってしまいますが、欧州ではサステナブルを代表するような素材です。
このOPENLYでは、ヘンプを含む有機性の建材でCO2を建物内に固定しています。
・ヘンプクリートで約58tのCO₂を固定(※ヘンプクリート:ヘンプを混ぜたコンクリート)
・ヘンプは年2回収穫でき、 種はオイル、繊維は衣料、残りを建材へ
・木材もCO₂を固定するが、残材が出る
→「回避」と「吸着」の両立ヘンプクリートで58tのCO₂を固定し、木材でもCO₂を貯める。
一方、日本では「木を使っているからエコ」で止まってしまうことが多い。

スイスでは、残材はどうするのか、リサイクルできるのか、次の用途は何か、そこまで含めて設計されています。
設備も同じで、機械に頼りすぎず、壁の厚み、蓄熱、自然換気を最大限活かす。
日本の【設備先行型住宅】とは、思想が逆です。
まさにハイテクの上の【ローテク】を実践している状態です。
■集合住宅への本気度
スイスでは、住宅の6割が賃貸。戸建ては中流階級以上の選択肢です。
だからこそ【集合住宅を変えないと意味がない】。
日本では、戸建て性能の話は増えましたが、集合住宅はまだ置き去りにされがち。
OPENLYは「富裕層でも選びたくなる集合住宅」を本気でつくることで、社会全体の環境負荷を下げにいっています。
今でこそ高性能賃貸というフレーズが少しずつ出てきてはいますが、この視点は、日本でも避けて通れないテーマだと思います。

↑この天井は炭化コルク。断熱材がそのまま仕上げとなっている。
■世界文化遺産「ザンクトガレン修道院」
昼食は各自でということで、St.Gallen(ザンクトガレン)の街を散策しながらカフェでいただきました。
ここでの散策も建築メインということで、世界文化遺産にも登録されているザンクトガレン修道院を訪れました。

バロック様式の修道院で、その壮大なスケールで築かれた建築美に魅了されます。
この中にある図書館も圧巻で約17万冊の本が今でも読める状態で保存されています。
ヨーロッパならではのこの雰囲気はなかなか写真では伝わりづらいですが、こんな感じです↓

思わずため息がでるような美しさでした。
そして、ブルーマー・レーマン社へ向けて再びバス移動です。
■ブルーマー・レーマン社が示す「産業としての木造」
ブルーマー・レーマン社は、
伐採から設計・物流まで自社で完結する木造企業。


620人の社員、150年続く循環。
木造が「想い」ではなく「産業」として成立しています。
日本にも技術はある。
素材もある。
でも、産業としての構造が弱い。
ここに、決定的な差を感じました。

■ルールが未来をつくる

スイスでは、
・化石燃料禁止
・電気暖房禁止
・太陽光義務化
・エンボディドカーボンの証明で助成金

「やりたい人だけがやる」ではなく、社会全体が進む方向をルールで決めている。

日本のように
「努力目標」
「推奨」
とは、スピード感がまるで違います。


■4日目を終えて
ブルーマー・レーマン社の後にも、滝川さんと再開発地域の建築を見学に行ったりと盛りだくさんな一日。

スイスで感じたのは、建築の性能差ではありません。
【建築をどう社会に位置づけているか】その差でした。
教育、産業、制度、建築。全部がつながっているから、木造が特別なものではなく“当たり前”になる。
日本でも、できないはずがない。ただ、まだ本気で向き合っていないだけ。
4日目は、「何を学ぶか」より日本が「何から逃げてきたか」を突きつけられた一日でした。
次回5日目は、HAGA社と持続可能な森づくりを見に山へ入ります!
では、素敵な一日を!